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東京家庭裁判所 昭和58年(少ハ)14号 決定 1983年9月28日

少年 M・R(昭三八・一一・一四生)

主文

少年を中等少年院に戻して収容する。期間を本決定の日から一年を限度とする。

理由

(申請の理由の要旨)

1  少年は、昭和五六年一一月六日、関東地方更生保護委員会の決定により、喜連川少年院から仮退院を許され、その際、犯罪者予防更生法三四条第二項所定の事項(いわゆる一般遵守事項)及び同法三一条第三項による同委員会の定めた事項(いわゆる特別遵守事項)の遵守を誓約して東京都文京区○○×丁目×番××号の父M・Dのもとに帰住し、以来東京保護観察所の保護観察下にあるものであるが、以下のような遵守事項違反の事実があつた。すなわち、少年は、

(1)(イ)  昭和五七年八月ころから昭和五八年七月ころまでの間、家人に無断で、前後六回にわたり、いわゆるサラ金から合計約八八万円を借金したのみならず、この間の昭和五八年四月には、親名義の定期預金四五万円を無断で引出したのをはじめ、その後も約三回にわたつて家人の郵便貯金から合計約九万円を無断で引き出したほか、祖父、伯母、妹からも合計約一五万円をせびり取り、

(ロ)  昭和五八年八月四日、母親所有のネックレスを無断で持ち出して入質換金したのをはじめ、同月二〇日にはステレオのアンプ、チューナーを、同月二九日には父親の仕事道具であるトランシットを、また同年九月四日にはクーラーを、いずれも無断、あるいは家人の制止を振り切つて持ち出したうえ、これらを入質換金し

これらによつて得た金員を遊興費、借金返済等にあて

(2)  昭和五八年四月二三日ころ、友人A、Bとともに、C子、D子(いずれも保護観察中の少女)をいわゆる「なんぱ」して、同女等を当時少年が寝泊りしていた都内新宿区○△のマンションに連れ込んだうえ、同女等と肉体関係を結ぶなどして、不純異性交遊をなし、

(3)  昭和五八年六月一一日、同年七月一一日及び同月一三日の三回にわたり、友人のE所有の現金合計一〇万円を窃取したものであつて、前記(1)乃至(3)の行為は一般遵守事項第二号に、前記(2)の行為は、特別遵守事項第三号「女性の人格を重んじ、みだらな行為をしないこと」に、また前記(3)の行為は、特別遵守事項第四号前段「盗みをしないこと」に、それぞれ違反する行為である。

2  加えて、少年については、以下のような理由から戻し収容を相当と思料する。すなわち、

(1)  少年は仮退院当初から就労意欲に乏しかつたうえ、サーフィンや音楽等の遊びに興じ、都内新宿区○△の父親所有のマンションに入りびたつたり、あるいは無断外泊を繰り返えすなど、不安定な生活を続けていたものであつて、この間親からもらう自動車学校教習代を流用したり、両親から二万、三万と現金をせびり取るなどして遊興費にあてていたほか、上記1の(1)の如き、サラ金からの借金や家人の預金を無断で引き出すなどして多額の金員を浪費していた。また、少年は東京保護観察所の再三にわたる指導にもかかわらず、昭和五七年七月以降、担当保護司宅への来訪をしなくなつたため、やむなく担当保護司が往訪することにより、両親等の話からかろうじて少年の生活状況を確認できる状態となつた。そこで、保護観察官は、両親との接触を密にする一方、少年を直接指導することとし、昭和五八年五月一一日及び同年六月二七日の二回にわたり、少年に対する面接指導を行ない、新たに判明した上記1の(2)及び(3)の不純異性交遊及び窃盗について厳しく指導するとともに、父親の仕事を手伝い、計画的に借金を返済すること及び窃盗の被害弁償をすることなどについても指導した。しかし、少年は、就労しないまま、上記1の(3)のとおり再び窃盗を反覆したほか、家人の郵便貯金を引き出すなどして徒遊を続けたばかりか、昭和五八年七月二五日、東京保護観察所において、「父の仕事を手伝うこと、家族に迷惑をかけないこと、借金をしないこと、もしこれらのことを守れない場合には少年院に戻されても仕方がないこと」などの内容を書面にして誓約したのであるが、翌二六日には、再びサラ金から借金したほか、同年八月に入るや上記1の(1)記載のように家財道具類を次々と無断で持ち出して入質するなどの放逸な行動に及ぶようになつたのみならず、東京保護観察所の出頭指示呼び出しにも応じようとしないで、保護観察から離脱するに至つた。

(2)  他方、保護環境についてみると、父親は、少年が○△マンションに寝泊りしていたことについて暗黙の了解を与えていたふしがあつたほか、ある時期、少年の再渡米を考慮したことがあるなど、少年を厄介者と考えている様子もうかがわれるので、父親に適切な監護を期待することはできないうえ、過干渉の母親にも多くを望むことは困難な状況にある。むしろ、家族全員が少年一人のために多大の迷惑を受け精神的にも困惑しているところから、少年の再収容を希望している状態にある。のみならず、最近少年が家財道具を持ち出したり、交際している少女のことで両親から注意を受けるや、両親に対して乱暴を働いたことがあり、このような状態からみると、少年と両親との関係はさらに悪化し、家族自体が崩壊するおそれも強いといえる状況にある。

以上の状況にかんがみるとき、少年に対してさらに保護観察を継続しても、早期に少年の行動の変容をはかることは困難であるばかりか、むしろ、それ以前に新たな非行を反覆するおそれが極めて大であるといわざるを得ない。少年については、この際少年院に戻して収容したうえ、一層強力な矯正教育を施し、これまでの生活態度を反省させ、かつ家族と融和してゆく気持を持たせることにより、更生への自覚を促すこととし、その間に、帰住先の環境調整にあたるとともに、出院後定着できる職場の開拓をはかることが適切な措置であると思料されるので本申請に及んだものである。

(当裁判所の判断)

少年調査記録を含む本件記録及び当審判廷における少年、保護者の各陳述によれば、上記(申請の理由の要旨)として掲記した遵守事項違反の事実及び少年の仮退院後における生活行動、保護観察の経過、成績並びに保護環境に関する事情はすべてを認めることができる(但し、申請の理由中に、「祖父、伯母、妹からも合計約一五万円をせびり取り」とある部分は、「伯父、祖母、妹から合計約一五万円をせびり取り」の誤記と認められるので、このように訂正したうえで認める。)。もつとも当審判廷で、父親の方は戻し収容を望むと受けとれる陳述をしたのに対し、母親の方は、少年が今回の措置をとられたことで本当に反省した旨の陳述をしたことを受けて、できることなら戻し収容を避けてもらいたい旨の陳述をした。しかし、母親のこの陳述は、少年の反省態度がその言葉どおり、いつまで続くかについては不安を残しているというものであつて、多分に母親としての情に支配された希望的な期待感の濃いものということができるうえ、冷静な父親の態度ともそぐわないものであるから、母親のこの陳述は本件申請の当否の判断を左右するほどのものということはできない。したがつて、少年に対しては、この際中等少年院に戻して収容したうえ、徹底した矯正教育を実施して、これまでの生活態度を根底から反省させ、更生への自覚を促すことが相当であるといわなければならないが、その期間は、決定の日から一年を限度とすることが相当である。

よつて犯罪者予防更生法四三条第一項、少年審判規則五五条により主文のとおり決定する。

(裁判官 門馬良夫)

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